嘘のようで本当の話である。
西武池袋本店の顔となるラグジュアリーブランドのルイ・ヴィトンは、かつて1階に無かった…。
本記事では、2009年西武池袋本店へ出店した後の主な移転.改装の流れをまとめていきたい。
2009年といえばリーマン・ショック後の不景気で百貨店の業績が低迷していた時期である。
なぜその時期に出店できたのか…答えは明治通りを挟んだ向かい側にあるヤマダデンキLABI池袋本店の建物にある。本建物は三越池袋店が出店していたが、2009年5月6日長い歴史に幕を下ろした。業績が低迷していたものの、三越の暖簾の力を生かして1階に有名なラグジュアリーブランドが軒を連ねており、ルイ・ヴィトンもその1つだった。
・三越池袋店 フロアガイド_web archive
閉店後、池袋という有力なマーケットを捨てるのは勿体ない…そこで実質移転先として選ばれたのが西武池袋本店である。
①_地下1階北ゾーン出店
「LOUISVUITTON/underground/」というブランド名でオープンした。1階の本設店舗が完成するまでの暫定的位置づけだったようである。開店日は2009年5月30日と、三越閉店から1ヶ月も経っていない。池袋のマーケットの空白期間を1日でも少なくしたいブランド側の事情がうかがえる。
ラグジュアリーブランドは、街や商業施設の顔として1階に出店することが珍しくない。しかし、最初に選ばれたのは地下1階北ゾーンである。

当時西武池袋本店の地下1階には花屋/カフェ(ルイ・ヴィトンと同じ北ゾーン)やデパ地下があり、ラグジュアリーブランドとの親和性が高いフロアには見えない。
何故ブランド側はOKしたのだろうか。当時、全館改装中で他のスペース(後に出店する1階北ゾーン・ラグジュアリーブランドが並ぶ南ゾーン上層階など)が確保しにくい状況だったのかもしれないが、人流が魅力的であえて選んだ可能性もありそうだ。
地下1階には自由通路が多くあり、ルイ・ヴィトンが出店した北ゾーン付近は、丸ノ内線.JR線.西武池袋線の乗り換え客が1日中多く行き交う場所だ。駅利用客にブランドをアピールするには丁度良い。
また、三越時代の顧客にとっても分かりやすい立地なのである。地下1階北ゾーンの近くにはISP 池袋ショッピングパーク(地下街)があり、そこを通り抜けると三越の地下の売場に直結していたので、馴染みのある場所なのだ。
よく考えられた出店戦略だなと思う。
・FASHIONSNAP_ルイ・ヴィトン 西武池袋店「LOUIS VUITTON /underground/」が期間限定オープン
地下1階全体のフロア構成の変遷については、たろうさんが随筆した記事が詳しいので、こちらも是非ご覧いただければと思う。
・西武池袋本店|フロアの変遷 #2 (本館B1F) | Jzurde.JP
②_1階出店
2010年10月30日、1階北ゾーンにルイ・ヴィトン西武池袋店がオープンする。百貨店の顔となる一等地であったが、隣にはショッピングモールでよく見かける低~中価格帯アパレルブランドのチャオパニックが入っている独特なゾーニングとなっていた。
チャオパニック出店の背景は下記ニュースリリースに記載があるが、百貨店アパレルと若年層顧客のミスマッチが生じており、新たな価値創出を行いたかったとのこと。
・株式会社そごう・西武 ニュースリリース_2010年7月15日_池袋本店 全館改装第Ⅲ期が9月7日(火)完成。

③_周辺ゾーニング変化
2015年11月30日、チャオパニックが閉店し、改装工事が始まった。・株式会社そごう・西武_西武池袋本店_お取り扱い終了のご案内_web archive
売場ターゲットが変わるのかどうか気になる中、2016年2月にニュースリリースが公表された。
これまでとは真逆のラグジュアリーブランドゾーンに生まれ変わり、目玉としてフランスのバッグブランドモワナの日本1号店がゾーン内に出店することも明らかになった(伊勢丹より先に出店したためか、当時は大きな話題となった)。
・株式会社そごう・西武_ニュースリリース_2016年2月17日池袋駅東口・上質なエリア再開発の玄関口に!西武池袋本店 1 階 リニューアルオープン
・株式会社そごう・西武_ニュースリリース_2016年2月3日_日本第1号店「モワナ ブティック」西武池袋本店にオープン

改装後は黒を基調とした内装となった。他フロアの白基調とは真逆の環境で、当時驚いたのを覚えている。ゾーン内は単に薄暗いのではなく、各ブティックの世界観が浮かび上がるような独特な設計で、中央部にはプロモーションスペースが設けられた。
下記リンクに、当時の様子の写真が残っていたので興味のある方はチェックしてほしい。
・MOMENT_池袋西武本店 プレステージ ブティック

その後ルイ・ヴィトンの改装も進められ、7月から2階で仮営業を実施。2016年9月17日リニューアルオープンした。
・FASHION PRESS_ルイ・ヴィトン 西武池袋店がリニューアル - メンズ・ウィメンズに加え、ファインジュエリーも新展開
・株式会社そごう・西武_西武池袋本店_1Fフロアガイド_2016年7月12日版
④_メゾネットブティック化
コロナ禍で世の中暗い話題が飛び交う中、ワクワクするニュースリリースを見つけた。およそ10年ぶりの西武池袋本店全館改装である。対象フロアのうち2階は、従来の婦人靴・ハンドバッグを3階に移転、アート雑貨・プレステージ雑貨・化粧品を新たに導入する計画となった。
目玉の1つが、ルイ・ヴィトンのメゾネット化(ブティックを2階建てに拡張)である。
工事中は1階北ゾーンのイベントスペースで仮営業を行い、2022年10月8日にリニューアルオープンした。ラグジュアリーブランドのブティック面積を拡大するのは容易な話ではない。売上実績はもちろん、長年かけて百貨店とルイ・ヴィトン間の信頼関係を構築した結果である。
・株式会社そごう・西武_ニュースリリース_2022年7月29日_池袋エリアの新しい世代を集客 西武池袋本店10年ぶりの改装スタート
・ルイ・ヴィトン ジャパン株式会社_ニュースリリース_2022年10月7日_ルイ・ヴィトン 西武池袋店 2022年10月8日(土) リニューアルオープン

ところで、そごう・西武の親会社のセブン&アイ・ホールディングスが当時どのような状況だったか覚えているだろうか。そごう・西武売却に向けた準備である。
ルイ・ヴィトンからオープンして1ヶ月後の11月、アメリカの投資会社のフォートレス・インベストメント・グループ(以下フォートレス)へ売却する方針が固まった。フォートレスはヨドバシカメラと手を組んでおり、西武池袋本店の低層階が家電売場になる可能性が高まった。ルイ・ヴィトンリニューアルオープンの祝福ムードはほんの一瞬…それ以降改装は事実上ストップし、従業員・取引先・買い物客の不安は日に日に高まっていくのであった…。

・株式会社セブン&アイ・ホールディングス_ニュースリリース_2022年11月11日_当社子会社の株式譲渡及びそれに伴う子会社異動のお知らせ
・株式会社ヨドバシホールディングス_ニュースリリース_2022年11月11日_そごう・西武百貨店に関するフォートレス・インベストメント・グループとの取組みについてのお知らせ
⑤_大人の事情で移転
2023年8月31日、そごう・西武の売却プロセスに反対するストライキが行われた。西武池袋本店は全館休業し、そごう・西武や同業他社の労働組合員が池袋の街でデモ行進を行った。出店ブランドも売却に懸念を示しており、ルイ・ヴィトン ジャパンは、移転せずに同じ場所で営業したいと主張しているとテレビ東京が報道した。
しかし、ステークホルダーからの不安の声はセブン&アイ・ホールディングスに届かず、同日売却の決議が行われた。
売却後、そごう・西武の一部土地等の資産はフォートレスからヨドバシホールディングスの手に渡った。西武池袋本店も対象で、ヨドバシカメラ出店スペース確保に向けた既存ブランド移転が始まった。
・株式会社セブン&アイ・ホールディングス_ニュースリリース_2023年8月31日_当社子会社の株式譲渡及びそれに伴う子会社異動に関するお知らせ
・読売新聞_2023年8月31日_西武池袋本店の土地など、3000億円でヨドバシHDに売却へ
2023年11月1日付の人事異動で、プラダジャパンの社長を務めていたダヴィデ セシア氏をそごう・西武副社長として招聘した。ラグジュアリーブランドのマネジメント経験者を社内に入れることで、ヨドバシカメラ進出に不安や不満に感じるブランドとの改装交渉をスムーズに進めたい狙いがあった。
・株式会社そごう・西武_ニュースリリース_2023年10月25日_当社役員人事について
各ブランドとの交渉が進む中、ルイ・ヴィトンとも何とか合意し、2025年2月28日に旧アインズ&トルペ跡地へ仮移転した。このときは、元の場所に戻ってくると思っていたが…。



⑥_リニューアルオープン!

2026年4月25日、1階・2階旧南ゾーンにリニューアルオープンした。
1階は西武池袋駅改札口側の出入り口を入った目の前(旧化粧品売場)、2階は上りエスカレーターを降りた目の前(旧アクセサリー・洋品小物売場)といずれもわかりやすい場所。以前みたいに建物の外側からブティック内を見ることはではできないものの、百貨店の顔となるようなゾーニングができた。
一時はどうなるかと思ったが、無事ゴールを迎えられ大変うれしく思った。
なお、⑤から⑥にかけてのルイ・ヴィトン移転の一連の流れについては、じゅーるで(Jzurde)さんにて詳しく随筆した記事があるので、併せてご覧いただければと思う。
・西武池袋本店の1階が見えてきた! 【ルイ・ヴィトンは中央8付近】 | Jzurde.JP
・ルイ・ヴィトン ジャパン株式会社_ニュースリリース_2026年4月24日_【ルイ·ヴィトン】西武池袋店、2026年4月25日(土)にリニューアルオープン

因みに、②~④で出店していたルイ・ヴィトンの跡地(旧1階北ゾーン)は現在ヨドバシカメラの携帯電話売場になっている。家電量販店の一等地はそうなるよな…と。
さいごに
西武池袋本店の改装が完了する予定は当初2025年だった。それから遅れること1年、ようやく形になってきた。
ブランド・フォートレス・ヨドバシ等関係各所との交渉、想定外の工事による施工計画見直しなど、我々が想像する以上に大変なプロジェクトだったと思う。関係者の皆さまに拍手を送りたい。
百貨店とブランドは日々の信頼関係構築が重要であることを、本記事を通して少しでも感じていただけると幸いである。
ルイ・ヴィトンが池袋の街にいつ進出したか、西武池袋本店に2009年以前に出店したことがあるかについては今後の研究課題としたい。


とても面白い記事の投稿ありがとうございます! 貴重なフロアガイドやリリースがたくさん載っていて、流れを資料とともに追える点がとても面白かったです。私が実際に見たことがあるのは③のプレステージブティック化した後だけなので、②以前の北ゾーンの構成にも驚きました。 記事の中にある、北ゾーンのリニューアルが売却によってストップしたこと、覚えています。リニューアル工事の仮囲いに、「西武池袋本店は全く新しい百貨店に生まれ変わります」のポスターが貼られていって、リニューアルの完成を待たずに次の改装が始まるのか...と思いました。想定通りに行くことばかりではないですが、一度2022年スタートの改装が完成した状態を見てみたかったですね。