7月9日(水)。
西武池袋本店の3階に新たなコスメティックスフロアが予定通りオープンした。売り場面積は1,700平方メートルで、12月にオープンを予定する1階のフレグランスコーナーと合わせて、関東最大級の美のテーマパークとなることを目指す。
新たなコスメティックスフロアは想像以上に綺麗に仕上がっているという感想を持った人も多い。全館の統一イメージの「ラグジュアリー」に合わせた重厚感ある内装は、化粧品の清潔感ある売り場と融合し、高揚感のある売り場に仕上がっていた。一方で、以前から指摘されていた、天井の低さに圧迫感を感じたという意見も見られた。天井の照明を埋め込み型のデザインにするなどの工夫は見られたものの、こればかりはどうしようもなさそうだ。
さて、コスメティックフロアの開業によって、ますます全館のグランドオープンへの期待感が増している西武池袋本店であるが、最近になってようやく工事が始まった場所がある。
地下1階の玄関口である「クラブ・オンゲート」である。
地下コンコースで工事開始
コスメティックスフロアの開業と前後し、地下1階の西武池袋線コンコースに面した部分の工事が始まり、仮囲いが設置され始めた。現在は一部の入店口部分を除いて、大部分が仮囲いで覆われた状態になっている。

柱4周に11,000個のLEDを敷き詰めてできた時計があった、(旧)光の時計口からクラブ・オンゲートに至るまでのコンコース部分は、これまで白を基調にしたシンプルでありながら明るく・近未来感のあるデザインで統一されていた。リニューアル後は、青や金色の装飾などを加え、高級感を全面に押し出す。
コンコースに面した外装の工事と同時に始まったのが、クラブ・オンゲートを一歩入ったところにあるスペースの工事である。クラブ・オンゲートには、現在では唯一の案内所である、南口(クラブ・オンゲート)案内所や南ゾーンエレベータ(9~12号機)4機、地下2階に降りるエスカレータなどが設置されている。

クラブオンゲートと地下1階フロアには若干のフロアレベル差があり、10段程度の階段が設置されている。階段の奥にエレベータがある配置である。1階より上の地上階につながるエスカレータはエレベータの裏側に存在する。
このクラブ・オンゲートにおいて、最近エレベータにつながる階段の一部に仮囲いが設置された。ちょうどエレベータの正面部分にあたるところで、エントランスとエレベータを繋ぐ動線をブロックする。現在は、入り口を背に仮囲いの左側が下り専用、登りは右側の階段を使用するように誘導される。

なんとも大胆な部分の工事を始めたわけであるが、何の工事をしているのだろうか。正解は「新しい案内所」を作っているのである。
案内所を移設
クラブ・オンゲートの顔が移動
リニューアルを経て、南口(クラブオンゲート)案内所が移設される。これまでの入り口入って右側の円形カウンターから、入って正面のカウンターに移動する。現在の階段の一部を塞ぐ形で設置されたカウンターは入り口方向を向き、エレベータ側には壁を設ける。入り口正面に移設した案内カウンターで、クラブ・オンゲートから入店した来店者を迎え入れる。

これまでの案内所やお買い物コンシェルジュカウンターがあった付近は、新たにコンコースに面した売り場になる。近年、インバウンド客に注目される日本のお弁当の特集コーナー「BENTO STUDIO」を展開する。地下1階は改装を経て、主にギフト・スイーツコーナーとなり、従来のお惣菜は地下2階に移ることが発表されている。一方で注目度が高い、お弁当や日本茶などは引き続き地下1階で取り揃える。
特徴的な円形の形状の案内所は役目を終え、新たな案内所に移動する。クラブ・オンゲートの印象は大きく変化することになりそうだ。
エレベータ混雑が緩和
さて、配置替えには良い副作用がありそうだ。これまで、クラブ・オンゲートから入店した来店客がエレベータに殺到していたものが、客の流れが変わることで慢性的な混雑が解消されるのではないかという指摘がある。どういうことだろうか。
エレベータ事情
ここで西武池袋本店のエレベータについて復習する。西武池袋本店の本館建物にはこれまで14機のエレベータが存在していた。北と中央ゾーンに4機ずつと南ゾーンに6機である。このうち、南ゾーンには、地下1階から地上12階までつながるエレベータ4機と、地下2階から地上8階までつながるエレベータ2機が存在する。

この12階までつながる主力4機は、クラブオンゲート入って目の前に、階段を数段上がったところに存在し、入り口から入店した際に目につきやすい。この配置を「入口入ってすぐの素晴らしい立地にエレベータを設置した」とみるか、「訳あって入口正面に設置されている」とみるかによって話が変わってくる。というのも、「入口入ってすぐエレベータ」というのはいいことばかりではないからだ。

エレベータは目的のフロアまで直接行けるし、移動速度が速いという点で便利ではあるものの、エスカレータに比べ輸送力は劣る。商業施設においては混雑を緩和するため、なるべくエスカレータを利用してもらうことが理想である。そのためエスカレータをフロアの中央部に、エレベータを少し入ったところやフロアの角に設置することで分散を狙うことが多い。実際、西武池袋本店のエレベータのうち、北・中央ゾーンにある8機は通路から一歩入った目立ちにくいところに設置されている。
ではなぜ南ゾーンの4機だけ、"こんな場所"に設置されているのか。
南エレベータがクラブ・オンゲートから入店した人を直接エレベータで輸送する目的であの場所にわざと設置されたのであればそれ以上のことは何もないが、仮に「やむを得ず」あの位置になったと仮定すると、建物の構造と密接に関係するある事情が浮かび上がってくる。
エレベータはここにしか通らない

西武池袋本店に限った話ではないが、駅直結のビルは非常に複雑であることが多い。西武池袋本店建物には、西武池袋線の池袋駅や地下コンコースなどがあり、地上1,2階と地下階が変則的な形状になっている。また、8階までが大きな三角形のような形状をしている一方で、9階から12階はその上に比較的小さく設けられている。南ゾーンの西側半分程度の面積である。
さて、この形状の建物の地下から地上に1本のエレベータを通そうとしたらどうなるだろうか。エレベータは当然垂直方向にしか移動しないから、9階から12階がある南ゾーンの西側半分程度の領域と、地下1階の売り場の重なる領域にしかエレベータは通せない。実際に建物を模した立体に、池袋駅地下コンコースの地図を重ねてみると、エレベータを通せるのは今の場所以外にないことがわかる。
クラブ・オンゲート入って真正面に、エスカレータを隠すかのようにエレベータが設置されている理由は、建物の制約によるものとみることもできるだろう。ちなみに、地下1階から地上12階まで続いているエスカレータケースは存在しない。地下1階から12階に向かうには3階から8階の間で、A通りエスカレータからB通りエスカレータに乗り換えなくてはいけない。
歪な形状はなぜ
話が逸れるようだが、そもそもなぜ建物がこんな形状をしている理由が気になってしまう。簡単に言えば、増築を繰り返しているからなのであるが、この9階から12階の形状には特別なエピソードがありそうだ。
本館に9階から12階部分が出現したのはいわゆる第9期増築時である。増築面積は11,600坪で従来の総床面積と比較して40%の増床を行なったこの工事は、建設工事中に異例の計画縮小を行っている。その経緯について、社史「セゾンの歴史(上)」には次の記述がある。
地元商店街および同業他社との利害調整に手間取り、70年4月から開始され得た審議が結審をみないうちに同年5月着工の運びとなった。基礎工事、鉄道関係工事が進む中で商権調整が進められ、池袋店の営業面積は、当時最大規模であった三越の15,000坪を大幅には上回らない16,000坪余りとすることで決着がついた。
着工時の計画では14階建て20,000坪の増築だった計画が、着工後の工事中に変更され、4,000坪程度縮小されたということになる。これが結果的に9階から12階部分の面積を縮小させ、ひいては地下階の売り場との垂直方向の重なりを小さくさせた。それこそが南エレベータが絶妙な位置にある理由と考えるのは強引だろうか。
しかし、このように考えれば、なぜ9階から12階は四角形に台形をくっつけたような歪な形状をしているのかも説明がつく。エレベータを通すためにはその出っぱりが必要だったのではないか...
ちなみに増築工事後に12階に開業したのは西武美術館。このエレベータは地下階から西武美術館への輸送という重要な役割を、当初から担っていた。
案内所が人流を変える
本題に戻すと、案内所の移設は、このエレベータに集中しがちな構造を改善するかもしれない。上で推測したような事情であの場所にあるエレベータは移動できない。しかし、入口入った正面に案内所が配置されることによって、エレベータはこれまでよりは目立たなくなる。人流も入り口を背に斜め左方向への流れになるかもしれない。

そうなると、エレベータはメインストリームから一歩奥に入ったロケーションに見える。エスカレータがこれまで以上に選択肢になりやすくなり、輸送力の大きいエスカレータに人が回る。エレベータは特に上層階に向かう人や必要としている人が使うようになれば、混雑は緩和されるというわけだ。
当然、エスカレータもエレベータも物理的には移動していないが、配置換えにより人の流れが変われば、相対的な位置関係も変わる。4機ある主力機と2機ある8階までのエレベータの合わせて6機、エスカレータがより効率的に人を運ぶようになるのかもしれない。
グランドオープンへの期待感が増す
今回は工事が進む地下1階コンコース付近の中で、クラブ・オンゲートに着目した。クラブ・オンゲートではコンコースに面した売り場の拡張が行われ、それに伴い案内所が移設されることがわかっている。それによりゲートから入店する人の流れが変わる可能性について考えた。
7月9日のコスメティックスフロアの開業によって、今後のリニューアルオープンに向けた期待感が増している。直近では9月にデパ地下の開業が予定されており、2024年8月以来閉ざされていたシャッターがようやく開く。歴史ある建物の生まれ変わった姿に感動せずにはいられないのではないだろうか。